【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
難攻不落
秀吉が石垣山の城で待ちわびて
いるとそこに淀、秀俊、利休らが
ようやく到着した。
イライラしていた秀吉もとたん
に顔がほころび上機嫌で出迎え
た。それから連日のように茶会や
宴会を催して戦のことなど忘れて
いるようだった。
九歳になった秀俊にとってこれ
が初陣ということになった。石垣
山から小田原城を望むと町全体が
土塁や堀で囲まれてその広さに驚
いたが、さらにその周りを取り囲
むように秀吉の大軍勢が集結して
いた。それらが掲げた無数の幟や
将兵が身につけた旗指物がキラキ
ラと錦に輝いてきれいだった。秀
俊は総大将にでもなったつもりで
目を見開いて見ていた。
興味深そうに見ている秀俊の側
に秀吉もやって来て小田原城を見
下ろした。
「どうじゃ金吾、これが難攻不落
の小田原城じゃ」
秀吉は自分の城を自慢するよう
に言った。
「とと様、いつこの城を攻めるの
ですか」
秀俊は秀吉の陣羽織の端を握っ
て聞いた。
「この城は攻めても無駄じゃ。よ
いか金吾、奪ってはならない土地
もある。戦って勝つことよりも戦
わずに相手を味方にすることのほ
うが最善の策じゃぞ」
秀俊は少し考えた。
「戦わないから私もここにこられ
たのですね」
秀吉はつまらなそうな顔をして
いる秀俊の肩に手を乗せて言っ
た。
「いやいやそうともいえんぞ。今
は金吾も一緒に戦っておるんじゃ
から」
「ふ~ん」
そう言ってうつむく秀俊のわき
の下を秀吉はくすぐって遊び始め
た。
いるとそこに淀、秀俊、利休らが
ようやく到着した。
イライラしていた秀吉もとたん
に顔がほころび上機嫌で出迎え
た。それから連日のように茶会や
宴会を催して戦のことなど忘れて
いるようだった。
九歳になった秀俊にとってこれ
が初陣ということになった。石垣
山から小田原城を望むと町全体が
土塁や堀で囲まれてその広さに驚
いたが、さらにその周りを取り囲
むように秀吉の大軍勢が集結して
いた。それらが掲げた無数の幟や
将兵が身につけた旗指物がキラキ
ラと錦に輝いてきれいだった。秀
俊は総大将にでもなったつもりで
目を見開いて見ていた。
興味深そうに見ている秀俊の側
に秀吉もやって来て小田原城を見
下ろした。
「どうじゃ金吾、これが難攻不落
の小田原城じゃ」
秀吉は自分の城を自慢するよう
に言った。
「とと様、いつこの城を攻めるの
ですか」
秀俊は秀吉の陣羽織の端を握っ
て聞いた。
「この城は攻めても無駄じゃ。よ
いか金吾、奪ってはならない土地
もある。戦って勝つことよりも戦
わずに相手を味方にすることのほ
うが最善の策じゃぞ」
秀俊は少し考えた。
「戦わないから私もここにこられ
たのですね」
秀吉はつまらなそうな顔をして
いる秀俊の肩に手を乗せて言っ
た。
「いやいやそうともいえんぞ。今
は金吾も一緒に戦っておるんじゃ
から」
「ふ~ん」
そう言ってうつむく秀俊のわき
の下を秀吉はくすぐって遊び始め
た。