【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
錬金術
 宗易は商いで国を治めるとまで
言われた堺商人の代表として信長
に召抱えられていた。
 その宗易は道楽の一つだった茶
の湯を改革し、わび茶を完成させ
た茶人として知られているが、ど
こにでもある材料で茶器を作り、
それを金よりも価値のある宝物に
高めた錬金術師のような側面が
あった。
 信長は宗易の考えを実行するこ
とで特定の場所でしか手に入らな
い金よりも、どこでも誰にでも作
れる茶器をあたかも価値のあるも
のに見せかけ流通させれば、自分
でいくらでも金を作れることをす
ぐに理解した。その茶器を資金に
換え、兵糧や鉄砲の調達にあてた
り、茶器そのものを戦で手柄を上
げた者に褒美として与えれば軍資
金を減らさずにすむ。
 信長は宗易のこうした才能に目
をつけ、茶頭にして茶の湯を広め
させたのだ。そして信長自身も高
価な茶器を買いあさり、そのこと
を「名器狩り」と揶揄(やゆ)さ
れたが、これで茶の湯が注目さ
れ、公家や商人も加わって茶器の
値段は高騰した。こうして信長は
茶の湯で莫大な利益を得ると同時
に公家との交流を深め、潤った堺
商人から支持され鉄砲などを買い
集めることができたのだ。
 秀吉も宗易を召抱えることで、
公家と堺商人をつなぎとめ関係を
深めることができた。
 民衆も秀吉が事実上、政権を
握ったことに拍手喝さいで向かえ
た。これらを追い風に秀吉は信長
の盛大な葬儀を主催して信長が生
きているという噂を打ち消し自ら
の政権誕生を印象づけた。また政
権の人事を独断して勢力を拡大し
ていった。
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