【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
わしは七十年生きたぞどうじゃ
わしの刃は誰だろうと切り捨て
る
受けてみよ わしの会心の一撃
を
今から死んで天下人、秀吉を呪
う
秀吉は鶴松丸の死でそう思うよ
うになっていた。そして利休に対
する怒りが前にもまして湧いた。
それは新たな天下取りの野望を呼
び起こした。
翌日、秀吉は諸大名に朝鮮への
出兵準備命令を発した。これには
皆、耳を疑った。
何をもって兵を出すというのか
大義名分がない。これは明らかに
侵略行為だった。しかし今は秀吉
を諌められる者がいなかった。弟
の秀長がいたら止められたものを
と皆、落胆した。
五奉行は秀吉が唯一話を聞きそ
うな北政所に説得を願い出た。
北政所は少し考えて、頃合いを
みて話すとだけ言った。今すぐ話
をすれば鶴松丸を死に追いやった
のは淀を側室にしたことを恨んで
いる者と、ありもしないことを勘
ぐられ、余計に話がこじれると
思ったからだ。
秀吉は怒りがおさまると冷静に
自問した。
(朝鮮出兵をつい口にしたが、こ
れは単なる思いつきだろうか。い
や九州征伐の時、対馬の宗義智を
介して朝鮮王に服従を勧告したが
その返答がなかった。それが心の
中にあり、燃えかすのようにくす
ぶっていたのかもな。しかし今、
朝鮮を相手にしていればその隙に
異国がこの国を攻めてくるか。も
し異国が攻めてくるとしたら上陸
するのは九州じゃ。そうじゃ九州
に強固な城を建て、その備えとし
よう。みておれ利休、お前の呪い
など跳ね返してくれるわ)
同年九月には正式に朝鮮への出
兵準備命令がくだされ、十月には
加藤清正が奉行となり、肥前に名
護屋城の築城を始めた。
十二月に入ってようやく北政所
は秀吉に聞いた。
「身は二つに裂けませぬが、日本
と朝鮮のどちらにお住みになるの
で」
すると秀吉は察したのか、関白
を辞任して朝鮮出兵に専念するこ
とにした。それを受けた後陽成天
皇は秀次を関白に任命した。
いくら望んでも手に入らない関
白の座が、忘れた頃ポンと転がり
込んでくる。運命とはあっけない
ものよと、秀次はため息をつい
た。
わしの刃は誰だろうと切り捨て
る
受けてみよ わしの会心の一撃
を
今から死んで天下人、秀吉を呪
う
秀吉は鶴松丸の死でそう思うよ
うになっていた。そして利休に対
する怒りが前にもまして湧いた。
それは新たな天下取りの野望を呼
び起こした。
翌日、秀吉は諸大名に朝鮮への
出兵準備命令を発した。これには
皆、耳を疑った。
何をもって兵を出すというのか
大義名分がない。これは明らかに
侵略行為だった。しかし今は秀吉
を諌められる者がいなかった。弟
の秀長がいたら止められたものを
と皆、落胆した。
五奉行は秀吉が唯一話を聞きそ
うな北政所に説得を願い出た。
北政所は少し考えて、頃合いを
みて話すとだけ言った。今すぐ話
をすれば鶴松丸を死に追いやった
のは淀を側室にしたことを恨んで
いる者と、ありもしないことを勘
ぐられ、余計に話がこじれると
思ったからだ。
秀吉は怒りがおさまると冷静に
自問した。
(朝鮮出兵をつい口にしたが、こ
れは単なる思いつきだろうか。い
や九州征伐の時、対馬の宗義智を
介して朝鮮王に服従を勧告したが
その返答がなかった。それが心の
中にあり、燃えかすのようにくす
ぶっていたのかもな。しかし今、
朝鮮を相手にしていればその隙に
異国がこの国を攻めてくるか。も
し異国が攻めてくるとしたら上陸
するのは九州じゃ。そうじゃ九州
に強固な城を建て、その備えとし
よう。みておれ利休、お前の呪い
など跳ね返してくれるわ)
同年九月には正式に朝鮮への出
兵準備命令がくだされ、十月には
加藤清正が奉行となり、肥前に名
護屋城の築城を始めた。
十二月に入ってようやく北政所
は秀吉に聞いた。
「身は二つに裂けませぬが、日本
と朝鮮のどちらにお住みになるの
で」
すると秀吉は察したのか、関白
を辞任して朝鮮出兵に専念するこ
とにした。それを受けた後陽成天
皇は秀次を関白に任命した。
いくら望んでも手に入らない関
白の座が、忘れた頃ポンと転がり
込んでくる。運命とはあっけない
ものよと、秀次はため息をつい
た。