【長編】戦（イクサ）小早川秀秋篇

毛利一族

　秀吉が豊臣家繁栄の手本とした
のは毛利一族だ。
　毛利一族は先代、元就の次男、
元春が吉川家を乗っ取るかたちで
養子となり家督を相続し、三男、
隆景が小早川一族の分家に養子と
なりその後、本家を乗っ取って小
早川家をまとめた。父子、兄弟が
争う戦国の世にあってこの三家は
強い絆で結ばれ、元就と元春が死
去した後も毛利輝元を小早川隆
景、吉川広家が補佐して西国を支
配していた。
　秀吉は以前、まだ子のいない輝
元に秀俊を養子にするように申し
入れたことがあった。
　これに毛利一族は猛反対し、特
に広家は本能寺の変で秀吉に騙さ
れたと父、元春から聞かされてい
たので不信感が誰よりも強かっ
た。しかし隆景は反対したところ
で秀吉に刃向かうことができない
現実をふまえ、うまく回避する方
策を考えるべきだと説いた。
　それから隆景はすぐに動き、自
らの弟、穂井田元清の子、秀元を
輝元の養子とすることがすでに決
まっていたことにした。そして朝
鮮出兵で秀吉が肥前、名護屋に向
かう途中、安芸、広島城に滞在し
たさいに秀元を会わせた。その
時、秀吉は秀元を輝元の養子と認
めたのだ。
　秀吉はその後の朝鮮出兵で秀俊
の処遇を棚上げにしていたが、捨
丸が生まれたからにはどうしても
毛利一族を取り込み、秀次には明
を攻略させて大陸を支配すること
で、捨丸を補佐する体制を整えた
いと考えていた。
　輝元に再び秀吉から秀俊の養子
縁組の要請があると毛利一族から
前にも増して反発が起きた。朝鮮
出兵では多数の兵を失い輝元や広
家は病に倒れるほどの過酷な状況
に追い込まれた。その間、所領は
疲弊してその再建もままならな
かったからだ。この時、意を決し
た隆景は宍戸元秀の娘で先代、元
就のひ孫にあたる古満姫を輝元の
養女にして、秀俊は隆景の養子に
迎え、古満姫と縁組させたいと秀
吉に懇願した。
　小早川家には隆景の弟、秀包が
いたがそれを廃嫡してまでの隆景
の毛利家に対する献身に秀吉は感
服して快く同意した。