【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
 その時、城を遠巻きに待機して
いた日本軍の側を一瞬の閃光と共
に風が吹いた。それは槍を振りか
ざし面頬を着けた秀秋とその後に
続く騎馬隊が、包囲している明・
朝鮮連合軍に疾風のごとく突き進
んで行く姿だった。
 秀秋は槍を振り上げて、馬を走
らせた。それに続く柳生宗章。
 岩見重太郎を先頭にした小早川
家の元家臣たちが雄たけびをあげ
て突き進む。それに少し遅れて稲
葉正成を先頭にした豊臣家の元家
臣たちがなだれ込んだ。
 驚いたのは待機していた日本軍
の救援部隊だった。
 長政が叫んだ。
「総大将」
 話し合いをしていた五人は慌て
て出撃の準備に散った。
 秀秋率いる騎馬隊はざっと二千
騎。その後を歩兵の約四千人が走
り、長い帯になって城を攻撃して
いる明・朝鮮連合軍の背後に迫っ
た。
 人質救出の解決方法は二通りあ
る。
 一つは人質の救出を最優先に考
え敵と交渉する。これには交渉に
時間がかかり、場合によっては敵
の要求を受け入れることになる。
 先に来ていた救援部隊が動かな
かったのは加藤清正という人質の
救出を最優先に考えていたから
だ。
 もう一つは敵と交渉はせず、状
況を把握して、攻撃できる機会が
あれば、人質がいようと行動を起
こし、短時間で解決する。これに
失敗すると人質が死亡することも
ある。
 秀秋はこちらのやり方を実行し
た。それは明・朝鮮連合軍の総攻
撃が始まったためすぐに行動を起
こさなければいけない状況にあっ
たからだ。また、明・朝鮮連合軍
の中には軍人でない農民なども駆
り出されていて武具を見ればその
違いが分かり、攻撃すれば崩せる
とにらんだからだ。
 明・朝鮮連合軍は明や朝鮮でも
名の知れた日本の誇りである加藤
清正が人質状態にあるため日本軍
の救援部隊は攻撃してこないとあ
などり、城の攻撃に気をとられて
いた。それがいきなり背後から攻
め寄せられ、次々になぎ倒されて
いった。
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