【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
転封赦免の礼
秀吉が生前に命じたように伏見
城には家康、大坂城には秀頼が
入った。
この時はまだ家康は東方の統
治、毛利輝元は西方の統治という
秀吉の命令も残っていた。しか
し、家康はあからさまに独断する
ようになった。その一つが秀秋の
国替えを無効にしたことだ。
家康は秀吉の遺言という名目
で、筑前、筑後と肥前の一部の所
領を秀秋に戻した。これはこの所
領の代官だった石田三成を解任し
たいという思惑があった。
三成は自分が解任されたことよ
りも輝元を無視した越権行為に怒
りを募らせた。
家康から知らせを聞いた秀秋は
越前、北ノ庄から筑前の名島城に
向かう途中、家康に転封赦免の礼
をするため伏見城に立ち寄った。
大広間に案内されて入るとそこ
には家康の家臣らが居並んでい
た。しばらく待っていると家康が
上機嫌で現れ、秀秋を優しく手招
きした。
「これは秀秋殿。よお参られた」
秀秋は家康の前に座って黙って
いた。
「幼き頃は、よく太閤に抱かれて
野遊びを楽しんでおられた。あの
頃のことをつい今日のことのよう
に思い出しますなぁ」
家康は懐かしそうに顔をほころ
ばせた。
秀秋も秀吉とあまり年の差のな
い家康の顔に、しわが多くなった
のを見て時の流れを振り返った。
幼かった秀秋はまだ若い家康を
這いつくばらせ、馬乗りになって
遊んだこともあった。それを秀吉
は笑いながら見ていた。
家康も秀吉の手前、それを怒り
もせず喜んで付き合う振りをして
いたのだ。
秀秋はそうとも知らず無邪気に
はしゃいだ。ふとその頃がよみが
えり、それが態度にでた。
「家康ともよく遊んだことを覚え
ている」
家康は一瞬、秀秋をにらみつけ
た。
居並ぶ家臣たちもざわついた。
城には家康、大坂城には秀頼が
入った。
この時はまだ家康は東方の統
治、毛利輝元は西方の統治という
秀吉の命令も残っていた。しか
し、家康はあからさまに独断する
ようになった。その一つが秀秋の
国替えを無効にしたことだ。
家康は秀吉の遺言という名目
で、筑前、筑後と肥前の一部の所
領を秀秋に戻した。これはこの所
領の代官だった石田三成を解任し
たいという思惑があった。
三成は自分が解任されたことよ
りも輝元を無視した越権行為に怒
りを募らせた。
家康から知らせを聞いた秀秋は
越前、北ノ庄から筑前の名島城に
向かう途中、家康に転封赦免の礼
をするため伏見城に立ち寄った。
大広間に案内されて入るとそこ
には家康の家臣らが居並んでい
た。しばらく待っていると家康が
上機嫌で現れ、秀秋を優しく手招
きした。
「これは秀秋殿。よお参られた」
秀秋は家康の前に座って黙って
いた。
「幼き頃は、よく太閤に抱かれて
野遊びを楽しんでおられた。あの
頃のことをつい今日のことのよう
に思い出しますなぁ」
家康は懐かしそうに顔をほころ
ばせた。
秀秋も秀吉とあまり年の差のな
い家康の顔に、しわが多くなった
のを見て時の流れを振り返った。
幼かった秀秋はまだ若い家康を
這いつくばらせ、馬乗りになって
遊んだこともあった。それを秀吉
は笑いながら見ていた。
家康も秀吉の手前、それを怒り
もせず喜んで付き合う振りをして
いたのだ。
秀秋はそうとも知らず無邪気に
はしゃいだ。ふとその頃がよみが
えり、それが態度にでた。
「家康ともよく遊んだことを覚え
ている」
家康は一瞬、秀秋をにらみつけ
た。
居並ぶ家臣たちもざわついた。