課長と私

「緩奈…いま何か音が……」

「えー?どうしたの楓。」

「今何か落ちた音しなかった?結構大きいもの…」

「ごめん、聞こえなかったけど…」


胸騒ぎがする。
今さっき閉じた非常口の先。
先輩とすれ違ったあの階段の方。


「緩奈、これお願い…。」

「え!?楓??」


緩奈に自分の持っていた荷物を預けて非常口の扉までできるだけ早く走った。
少し重めの扉を開けると、さっきすれ違ったはずの先輩の姿が見当たらない。

聞き間違いかと思って扉をもう一度閉めようとしたとき。

自分の声より先に体が動いた。
階段をすごい速さで降りた。最後の1段でつまづいて前のめりに転んでしまう。

でも、そんなことより目の前に倒れている彼に触れることが最優先だった。


「先輩………先…輩……先輩!!!!」

「………。」


踊り場に倒れている大きな体をゆすった。
何度も何度も声をかけてるのに先輩の目は一向に開かない。


「先輩!!先輩起きてください…っ!!……りょ………亮くん…!!」

「ちょっと楓?何して……課長!?」


後ろから緩奈の声が微かに聞こえる。

私の目からは大粒の涙があふれていた。
前が見えない。

先輩の姿さえもぼやけている。


「亮くん!!!!…お願いっ…目……覚まして……!!」

「楓!!落ち着いて、楓ってば!!」


取り乱している私には緩奈の声も届かない。
私はただただ目の前に横たわっている彼の名前を必死に呼んでいた。
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