課長と私
緩奈が微かに震える私の右手を優しく握った。
ホッとする暖かさだ。
「楓のあんな姿初めて見た。本当に好きじゃないとあんなことしないよ。」
「あんまり…覚えてないや……必死で…」
あははと枯れた声で苦笑いをする。
「課長が起きたら、ちゃんと言うのよ?せっかく決心したんだから。」
「そうだね…ありがと、緩奈」
そんな時、ずっと閉めきっていた手術室の扉が開いた。
中から医師が出てくる。
「関係者の方…いらっしゃいますか?」
「あ……」
「ほら、楓…。」
優しく背中を押される。
深呼吸を1度して医師の近くに行く。
「柳瀬さんですが…命には別状はありません。誤って階段から転落して、一時的に気を失ってしまったんでしょう。」
「そ…ですか。」
今までにこんなに心からほっとしたことは無かった。
全身が緊張していたのが分かる。
「ですが。」
「…何かあるんですか?」
「衰弱しているところを見ると、この状態になるまでの過程で何かショックがあったのが原因かと思うのですが、何か思い当たることはありますか?」
「ショック…」
もし、そのショックの原因が私との一件だったら。
それほど私のことを思っていてくれたと、そう思ってもいいのだろうか。
「はい…思い当たることが……」
「そうですか。1番の回復はその問題が解決することだと思いますよ。」
「…はい。」
「体の方は栄養のあるものを食べて少しの期間休めば大丈夫です。では。」
お辞儀をして、結果を待っていた部署の人たちに報告した。
皆安心したように胸をなで下ろしていた。
先輩の築き上げてきた信頼関係が目に見えて分かった。