課長と私

ジャガイモがのどの奥に詰まった感じがする。
たまらず水を飲みに席を立った。


「柳瀬さん、本当に楓でいいの?あの子、私が言うのはあれだけど普通中の普通だと思うのよね…」

「……。」


私がいないことをいいことにお母さんが核心を突く質問をした。
普通中の普通って何よ、あなたが産んだんでしょ。

水を飲んで落ち着いたはいいものの、後ろから聞こえる声の主のところへ戻りづらい。


「僕は…楓さんしかいないと思ってます。」


少しだけ沈黙があって、それからぽつぽつと語りだした。


「僕も楓さんと同じように大学から一人暮らしを始めたんですが、どうも家事が苦手で…楓さんにお世話になってます。」

「あら、そうなの?しっかりしてそうなのにねぇ。」

「いえ…僕なんて欠陥だらけです。楓さんがいなければ、生活が成り立ちません。」


心臓が大きな音をたてた。
正直、彼の目を見て言われてみたい気もしたが今はその言葉を聞けただけで嬉しい。
自然と口角が上がってくる。このまま聞いていようかなんて思い始めている。


「楓!あんた早く戻って来なさいよ。」

「あ…はいはい…すいません。」

「聞こえてたんでしょ?…良かったじゃない、幸せ者ね。」

「…うん。」


まだニヤニヤで先輩の顔は見れないけど。
幸せを噛みしめながら飲み物に手を伸ばす。

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