課長と私
真っ暗闇に包まれた視界。
目を閉じているからだと分かっているが、開くことが今の私にとっては大変だ。
頭も痛い。お寺の鐘が頭の中でずっと鳴り続けている感じだ。
その都度微かな吐き気もする。
朝から何も胃には入ってないと思ったが、出そうな感じ…
そんな中、誰かに抱きかかえられて移動している感覚だけが分かる。
「楓」
この声は分かる。亮くんだ。
「楓!」
緩奈の声もする。
泣きそうな声色だ。
目をゆっくり開ける。
日差しが入ったベッドの上のようで眩しい。
家じゃないのは確かだ。
「う……」
「あっ!楓!良かった、楓!課長!」
「こら、病人の近くで騒がないの。」
医務室の先生が注意した。
入社してから初めて来たかもしれない。
先生と緩奈の様子が面白くて、私は自分でも感じるくらい弱弱しく笑った。
「楓。」
「りょ……あ、か…課長……」
「だから言ったのに…」
たぶん朝の会話のことだろう。
こうなってしまった今を思うと、彼の言うことを聞いておけばよかったと思う。
「須藤さん。起きたついででちょっとお話し良い?」
先生に話しかけられて、先輩に支えられながら上体を起こした。
「具合が悪かったのは今日が初めて?」
「えっと…ここ最近少し体がだるくて…風邪かなぁなんて。」
「楓、お昼あんまり食べなくなったよね。気持ち悪いとか言ってさ…」
緩奈の言葉にゆっくり頷く。
「食欲も無かったってことね?」
先生がカルテか何かにサラサラと記入する。