課長と私

「須藤さん、妊娠してるかもよ?」

「………。」


……にんしん

…ニンシン


「妊…娠…」

「えっ…楓、赤ちゃん出来たの?…すご…どうしよう…楓、おめ、おめでとう!」

「こら、当事者より喜んでどうするの。」


まだその言葉に頭がついて行かないまま左側にいる彼の姿を探す。

彼は、私のことを見てほんのり赤くなりながら口元を抑えていた。


「かちょ……っ!!」


言葉を遮られるように抱き付かれた。


「柳瀬課長!?」


先生がびっくりしている。
部下に課長が抱き付いていたら確かに驚くだろう。


「あ、あのっ課長、会社、ここ、会社ですっ」


そう言って広い肩を押し返してみるが抱きしめた腕をほどこうとしない。
温かい。優しい。安心する。

私は押し返すのをやめた。
そのまま手を背中にまわした。


「…ありがとう。楓。」

「……はい。」


ようやく実感が出来た気がした。
涙が頬を伝う。

嬉しさがじんわりじんわりとしみわたっていく。


「あなた達…付き合ってたのね…。」

「あの…先生、もう少しだけ…内緒にしていてくれますか?」

「えぇ。それは良いけど…。」


緩奈が気を利かせてくれたおかげで先生には黙っていてもらえるようだ。

しばらくたって、先輩が私の体を離した。
ようやく自分がやったことを理解してハッとする。


「楓ちゃん…病院いこ。」

「えっ、でも朝礼が…それにお仕事がまだ…」

「朝礼なんて明日もあるから。」

「だめですよ、課長がいなくなったら、皆驚いちゃうでしょ?」

「でも…」


小さい子供の様に駄々をこねる。
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