課長と私
「ふふふ。」
緩奈がくすりと笑う。
思わずそっちを見てしまう。
「あ、ごめんごめん。課長って楓の前だとそんななんだと思って。」
「そうね。会社ではまったく想像できないわね。隙が無い人で有名だったから…」
頬杖をつく先生。
やっぱり会社内では知らない人はいないんだ。
「もー、ほら言われちゃったじゃないですか課長…朝礼の後に行きましょうよ。」
「……分かった。」
なんとかその場を押し切って彼を朝礼に行かせた。
後を追うようにして緩奈も医務室から出ていく。
先生は「課長も人間だものね。」なんて言って事務作業に戻っていった。
まだ膨らみもないお腹に両手をあててみる。
「赤ちゃん…。」
もちろん私と、亮くんの…赤ちゃん。
思い返すと確かに今までの体調の悪さは妊娠初期で出る症状と似ているものばかりだ。
全然気づかなかった。
先生と私だけ残った医務室は外からの日差しと涼しい風が入って、さっきまでの体の重みが解消されていくようだった。
心配性の先輩のことを考えながら目を閉じ、少しだけ眠りの世界へ入っていった。