課長と私

「旦那さんも、しっかりと支えてくださいね。今回は初産だし…どちらもお母さん1年目、お父さん1年目ですからね。助け合って育てていきましょう」

「…はい。」


先生の診察を終え、待合室に出た。


「………。」

「どうしたの、楓ちゃん。…具合悪い?」

「…あ、いえ。」

「…赤ちゃん、嬉しくない?」

「それはっ…違うんですけど、あの、本当に私のお腹にいるのかと。まだ、こんな感じですし…」


自分のお腹をさする。


「さっき先生に言われたじゃん。いるよ赤ちゃん。」


そう言いながら、横を歩く私のお腹を撫でる。


「平らだね」

「お腹、膨らんでいく想像が出来ないです。」

「あと…ぷよぷよしてるね」

「あっ!こら!つままないでくださいよ!最近気にしてたのに…!」

「ごめんて。…帰ろう、今日は休まないと。」


優しく肩を抱いて歩き出す。
不思議な感じがする。これからどんどんお母さんの自覚が出てくるのだろうか。


「楓ちゃん、何か食べたいものある?」

「え?亮くんが作ってくれるんですか?」

「うん……極力…作る。」


嫌そうな顔をしている。
極力という言葉にすべての気持ちがこもっている気がする。


「麺類…なら食べられる気がします。」

「麺ね。あと、フルーツだっけ?食べられたの。」

「そうですね…あ、でも亮くんが食べたいものでいいですよ。」

「気使わないでいいから…こういう時くらい甘えてよ。…これから長いんだよ。」


もともと優しいとは思っていたが、さらに優しくなった彼に少しだけむず痒い気持ちでいっぱいだ。
彼のその言葉に甘えることにした。
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