課長と私
―――………。
「…ごちそうさまです。」
「お腹いっぱい?」
「ごめんなさい…美味しかったんですけど……。」
全体の3分の1くらい食べたところで満足してしまった。
せっかく先輩の手料理なのに、レアなのに…
全部食べられないことが申し訳ないし、悔しい。
「いいよ。何か欲しいものあったら言って。…あと、」
「あと?」
「楓ちゃん家…近々行こう。体調良い日で、ね。俺の仕事も落ち着いたし…」
「は、はい。…母に連絡しておきます…。」
「お願いね。」
いよいよ挨拶か…緊張する…
先輩のお母さん、お父さんってどんな人なんだろう…。
「緊張する?」
「しますよ~…というか、亮くんは自分の家族に私のこと、言ったことあるんですか?」
「確か、言った。」
おいおい大丈夫か?
これは本当に初対面パターンか?
「俺、今までに1回も家族に言ってないんだよね。そういう人いても。」
「そう…なんですか?」
「嫌なんだよね、干渉されるの。……だから、今回は言わないとと思って。」
「干渉、されるの嫌なんじゃないんですか?」
「んー…嫌だけど、これから家族ぐるみのお付き合いになるのにそんなこと言ってられないでしょ?」
向かい側に座る彼が頬杖を突きながら首をかしげる。
「……好き」
「え?」
「何でもないです…」
反射で口に出してしまった。
彼の仕草も、声色も、言葉も堪らなく好き。
「これ、片づけるね。」
目の前にあった食器を重ねていく。
「ごめんなさい…」
「謝らなくていいよ。また…いつでも作るし。」
「本当ですか?嬉しい。」
「楓ちゃんの料理の方が美味しいのに…」
「亮くんの手料理を食べられるのは、私だけですもんね。」
「確かに。」
「嬉しい、です。」
キッチンの方へ歩いてく彼。
「楓ちゃん」
「はい…?」
「…俺も好きだよ」
シンクに食器を置いた後目線をこちらに向ける。
「あ!!さっき…聞こえないって…」
「聞き逃すわけが無いです。」
「もー……私も、確かに聞きましたからね」
「はいはい…楓ちゃん、お風呂入ったら早く寝よう。」
食器洗浄機にお皿をいれ、お風呂場に促される。
まだ全快には程遠い。