課長と私
「今、楓さんのお腹には…もう一つの命があります。」
静かになった部屋に先輩の声が響く。
怖くて私は顔があげられなかった。
何秒かして、ガタンという音と一緒に隣から水音が聞こえた。
ハッとして右側を向くとお母さんからお茶をかけられ髪や服が濡れてしまった彼がいた。
「お母さん!!」
「楓は黙ってなさい。」
「……っ」
少しだけ震えたお母さんの声に次の言葉が出てこなかった。
「私は、あなたに楓をよろしくって、頼みましたけど…っ物には順序ってものがあるでしょ!?」
「……。」
「こんなことになるために、あなたに楓を預けたんじゃないわ…!!」
「母さん、よしなさい。」
このままだと彼にとびつきそうなお母さんを横にいたお父さんがなだめるように座らせた。
「柳瀬くんと言ったかな。」
「…はい。」
「そのままだと落ち着いて話も出来ないだろう。ついておいで。」
「はい…」
2人で部屋の外に出ていく。
シーンと静まり返ったリビングに私とお母さんが残された。