課長と私
言われた通り、走りはしないが気持ちが浮ついているからなのか、早歩きをしていることに気づいた。
いかん…
落ち着け自分…
まだお父さんの答えを聞いてないんだった…
「君は手足が長いからな…これで大丈夫か…」
「あの…すいません。洗って必ず返しますので。」
「いいよ。母さんがやったことだ、自分で洗ってもらおう。」
「…すいません。」
2人の会話が聞こえて扉の少し前で止まる。
先輩の声が緊張しているように聞こえた。
さすがにお父さんと2人きりになるとは思わなかっただろう。
「なぁ、柳瀬君…君は、楓のどこが好きなんだ。」
お父さんの声で肩がぴくっと動く。
私だって直接聞いたことはない。
「そう…ですね。」
「自分の娘のことを悪くいうのはあれだが、特に優れてる子だとも思わないんだ。」
お父さんひどい。
核心をつきすぎている…
「そうですか…ね。俺にとって…楓さんは周りのどんな女性より輝いて見えました…。」
「……。」
「俺にないものを楓さんが持っている。それは確かです。そんなところに惹かれました。」
鼓動の速さが体中に広がる。
「柳瀬君に無いものなんてなさそうだけどな…」
「いえ…私生活はもう楓さん無しではまわらないです。」
「同棲…しているのか。」
お父さんが小さくショックを受けているのが分かった。
そういえば、同棲していることも言うのを忘れていた。