課長と私
あっという間に時間が過ぎて、家に帰る時間になってしまった。
1泊でとても短い時間だったけど、私にとっては第二の家族だ。
離れるのが寂しい
「楓ちゃん。」
「はい…。」
「あのね、私…妊娠したことがあって…。ダメになっちゃったんだけど…」
百合さんが優しく手を握る。
「楓ちゃんには私みたいになってほしくない。だから、小さなことでもいいから気を付けて過ごして。重いもの持ったりとか、少しの段差とか、あと、それから…」
「百合さん。」
「ん??あ、ごめん…私、うるさかった?」
「違います。…私、百合さんみたいになりたいです。」
「え……。だ、だめだって。私みたいになったら子供が…」
百合さんの手を握りかえす。
「…百合さんも、お腹にいた赤ちゃんのこと大切に思ってるじゃないですか。だからこんなに私のことで必死になってくれて…。結婚式も、百合さんがいなかったら叶わなかったかもしれません。」
「………。」
「人のためにこんなに一生懸命になれる人に、私もなりたいです。」
「良かった。……亮の目は、間違ってなかった。ふふ。」
何かが吹っ切れたように微笑んだ。
素敵な笑顔だった。
「楓ちゃん、そろそろ行くけど、大丈夫?」
「あ…はい。」
百合さんと1度目を合わせてから手を離した。
最後にこそっと耳打ちをされ、それを頭の隅に置いておくことにした。
車の近くまで亮くんの家族が見送りに来てくれた。
「またね、楓ちゃん。兄さんに飽きたらいつでも俺のところに来なよ!」
「あんた、まだそんなこと言ってんの?バカだわ。」