課長と私
「ドレス、せっかく可愛いのに着るのはほんの一瞬ですね…」
「シンデレラみたいだね。」
「お、ロマンチックですね。」
静かに二人で笑いあった。
「ほら、そんなこと言ってる暇ないよ。スタッフさん待ってるから…脱ぐの手伝おうか?」
「もっ…やめてくださいよ、自分で脱げます!」
「はいはい…外で待ってるからね。」
ひらひらと手を振って、彼も部屋から出ていく。
しまった、後ろのチャックだけでも下ろしてもらえば良かったか…
「んー…よっいしょ…」
なんとかドレスも脱ぐことが出来た。
今までボリュームのある服を着ていたため、私服になるといっきに細くなる。
本当に魔法が解けてしまったように。
鏡に映る自分の姿にボーっとしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
すぐに彼の姿が見える。
「成瀬さーん、まだですかー」
「………。」
「……どうしたの?」
「私…成瀬なんですね。」
「須藤のほうが良かった?」
「あ、いえいえ…、違うんです、好きな人と同じ苗字になるってこんな感じなんですね…なんか、じわじわと来てます。」
「実感してる?」
「へへ……」
結婚ってこういう事なのかな、2つのものが本当に1つになる。
それぞれの道が、一緒の道になる。
そんな道を、二人で協力して進んでいく。
まだ分からないことばかりだけど、彼となら、楽しみだな…
大きな左手に自分の右手を合わせる。
久しぶりに手を繋いで帰った。
シンデレラの話の通り魔法は解けてしまったけど
王子さまはシンデレラを見つけて、幸せに暮らしたんだった。
私も、なれるかな…
なれるといいな…
一歩先を歩く大きな背中を眺め、ばれないように幸せを胸にしまいこんだ。