課長と私


「亮はさぁー…楓ちゃんと長いだろー?もう10年かー?」

「そこまでは言ってないけど…長い、かな」

「ほぉ…結婚しないのかよ?」

「まぁ……したい…けど」

「え…?」


あれほど賑やかだった彼らがスッと静かになった。


「亮……酔ってる?」

「ん…?」


少しだけ、ほんの少しだけ赤くなっているような…

あの成瀬亮が酔っているところを死ぬ前に見られるとは……


西も酒井も和田も物珍しそうにまじまじと彼を見る。


「そうだよな、同じ会社に連れてきちゃう仲だもんなー」

「んー…うん…。」

「おい、まさか本当に裏で手引きしてないだろうなあっ」

「…してないよ。」


終始ニコニコしながら答える。


酒が入ってない席だと絶対に教えてくれない。こんなのろけ話。
心底好きな相手なんだろう。


「こいつ…幸せそうな顔しやがって…」

「俺も女に苦労しない人生ってやつを生きたかった…」

「はいはい…お前ら、亮が素直に答えてくれるこの時を無駄にすんなよ…ってお前たちが覚えてられるかが謎だけど…」


店員が持ってくる酒を端から飲んでいく彼に囲み取材張りの質問攻めだ。


「お前らが付き合ったのは聞いたけどさ、きっかけって何だったの?亮が楓ちゃんのこと好きになったのっていつ?」

「んー…学内で1回見かけてて…そのあとサークルに体験に来てくれた時…綺麗で…」

「楓ちゃんの顔が?」

「字が。」

「字!?」


たどたどしく呟く彼の言葉。

和田の隣にいる酒井が話を聞きながらうとうとし始める。

プライベートだとあまり話をしない彼のペースは酒の席ではかなりゆっくりだ。



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