課長と私
「楓ちゃんさ、料理するとき髪の毛しばるんだけど…うなじが可愛いんだよね…」
「急にマニアックになったな。」
「…あと、嬉しい事あると…ニヤニヤして話すとことか……右手の爪にマニキュア塗るとき…めちゃくちゃ下手なんだよね……すげぇ可愛い…」
「亮!のろけ過ぎだ!俺のダメージが大きすぎる!」
西が亮の肩を持ち揺さぶる。
そんなことも構わずに、彼女の好きな所を思い出せる限り話す彼の図は近年稀にみる面白さだった。
「あー…楓ちゃん、めちゃくちゃ可愛い……」
「ああ、もう!楓ちゃんがうらやましい!以上!」
西の言葉に笑ってしまった。
左手の時計を見ると、もうそこそこに良い時間。
「さてさて…こいつらの酔いも醒めてきたところだし、今日はこれでお開きにするかな…」
「ん…」
「お、おい亮…大丈夫か?」
酔いが醒めてきた2人に対し、顔には出さないけど明らかに足元がおぼつかない彼。
歩けてはいるもののしっかり家まで到達するだろうか。
「亮、途中まで一緒に行こう。」
「うん…」
変える方向が一緒の俺はうとうとしながら歩く彼の隣を並行して歩くことにした。
「な、なぁ…亮に相談があるんだけど、良いか?」
「ん…?」
「俺…秋穂ちゃんとまた付き合うことにしたんだけど……前みたいに普通に接することが出来てるか、分かんなんくなってて…」
「普通にって…?」
「1番最初に付き合ってた頃……別れた時、あんまりいい別れ方じゃなかった気がして」
「…でも、お前の告白…受けてくれたんだろ?」
「それは…そうだけど。腫れ物に触れるように…っていうか、ちょっと気を使って話したり、一緒にいたりしているような、そんな感じがするんだ…」
「……。」
夜の街をゆっくりと歩く。少し風が冷たくなってきた。
彼も恋愛の話を率先して言うほうではないけど、俺もこんな話をするのは初めてかもしれない。
「…それも、言っちゃえばいいんじゃない?」
「え?」
「今の気持ち、素直に言えばいいのに。」
「そんな…言えるかよ…一緒にいて不安って?」
「言い方はほかにもあると思う…俺も、上手く言えない方だし、お前の気持ちも分かるけど……このままにしたくないなら、お前の思ってること彼女に言っても良いかな…って」