課長と私

「……そっか…。」

「…うん」

「さんきゅ…」

「うん」


彼らしいアドバイスだった。
それから少し歩いて、彼の自宅付近まで行ったところで別れを告げた。


「なぁ、亮。」

「ん?」

「楓ちゃん、幸せだと思うぞ。お前にそんなに愛されてるんだから。」

「……うん」

「じゃあ、またな。」

「あぁ…またな。」


まだ少しだけ千鳥足な彼の後姿を見た後で俺も帰路に就いた。

そのあと、家にちゃんと着いたのか心配になって、亮に電話することにした。
電話の先には女性の声。

最初はびっくりしたけど、すぐに楓ちゃんだと分かった。

ここまでくると何故結婚してないのかが疑問だ。


「…楓ちゃん、亮には弱点があってね?」

「弱点…ですか?」

「左耳、弱いんだ。男友達が触ろうとするとめちゃくちゃ嫌がる。」

「左耳…なるほど。」

「楓ちゃんなら良いんだと思うよ。」

「ありがとうございます。緊急事態に使わせてもらいますね。」

「緊急事態…?まぁ、仲良くね。じゃあ…またね。」


長年友達をやっていると時々収穫があるものだ。
たいした情報では無いけど。


「さてと…俺も、なんとかするか。」


携帯のディスプレイに表示させた彼女の名前に1度深呼吸してから通話ボタンを押した。


「あ…秋穂ちゃん?今、ちょっと良い…?」


今夜は少しだけ勇気が出せそうだ。





Fin.
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