課長と私

「いやいや絶対誘ってるでしょ。…今の彼氏、下手なの?満足させてあげようか?」



どこから出てくるのこの自信…




「あの…私、戻りますんで…」




強引に前を通り過ぎようとしたが、目の前に立たれ、挙句の果てに腕を掴まれてしまった。
さすがに男の人の握力は振り切れない。



「あの、離してもらっていいですか…困ります。」



「そんなウソつかなくていいって。…ここの隣ホテルだし、どう?」



「ちょ…やめてください…。」



「いいから、いいから。ホテル代出すし。」




ちょ…ちょっと待って本当に…
腕痛いし…



ずるずると引きずられるように出口に向かっていく。

その時、彼が強引に私を引っ張っているせいで、前から歩いてきた人に気づかずそのままぶつかってしまった。




「いってーな…」



「………。」



「せ…先輩……。」




私を引っ張る彼も175㎝くらいはあるけど、その上をいく男性。

あれほど言ったのに。といいたそうな顔をしている。




「どこ見て歩いてるんだよ…どけ。」


「……。」


「おい、何だてめぇ…」


「………。」


「さっきから無視してんじゃ…っ!!!!????」




みぞおちに長い脚がクリーンヒット。

さっきまで強引に引っ張られていた腕が解放され、すぐに暖かい手と繋がれる。




「あ、あのっ…先輩……」



「………。」



「先輩っ……待って…」



怒っているだろうか。
いつもより速足で、私は小走りになってしまう。


寒空の下、近くの駐車場に止めてあった彼の車に乗り込む。

車はすぐに発車せず、無言の時間が少し続いた。




「…ごめんなさい、あんなことになるとは…思ってなくて……」


「………。」


「あの人酔っぱらってて……」


「………。」




ど、どうしよう。

最初から参加することに反対していた彼に言い訳は出来ない。
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