課長と私

「あの…その……」

「昨日のこと?」

「…朝、緩奈に電話で聞きました。私、酔って藤崎に抱き付いたんですよね…」


自分で言っていて苦しい。


「…うん。」


視線は自分の持っている水に向けられたまま、ぽつぽつと私のペースで話していく。


「お酒が入ってとはいえ…その……先輩の前でそういうこと…してしまって……」


眉がハの字になっていき、声も小さくなっていく。
言葉が詰まりそうになったとき、項垂れる私の髪を耳にかけてくれた。


「気にしてない。……は、嘘だけどそこまでは深く考えてない。」

「へ…」

「さすがに…直後は少しイライラしたたけど、もう気にしてないよ。」

「その……私と…別れたいとか……あの…」


バッと顔を上げたと一緒に、彼との距離を詰めるように問いただす。


「そんなこと、一瞬も考えてないよ。」

「そ、そう…なんですか?」


溜まっていた涙がまたこぼれた。
それをうっすらと笑いながら拭う。

瞬きをするたびに落ちていく雫。


「不安なら…。」


優しい一言の後、大きな手で私の腕を引く。
力強く引っ張られてすっぽりと先輩の腕のなか。


「…先輩っ!?」

「不安なら、いつでもこうしてあげるけど。」


いや、嬉しいけど。
嬉しいけど…ここ外なのに…

人前でいちゃいちゃすることをしない彼が、こんなことをしてくれるのが珍しくもあり、嬉しくもある複雑な気持ちだ。


「誰も見てないから大丈夫。」


耳元でこっそりと教えてくれる先輩に、私の張りつめていた気持ちがフッと切れた。
薄暗い照明に少しだけ感化されて、私も先輩の背中に腕を回す。

彼の心臓の鼓動が私を落ち着かせる。

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