課長と私

「ごめん」


ずっと黙っていた先輩が突然謝りだした。


「へ?」

「気にしてないって言ったけど…さっきはそのこと考えてて…楓ちゃんと離れてることに気づかなかった。」

「そ…なんですか?」


抱きしめる力が少しだけ強くなる。


「朝も、大人げなくてごめん……でも、楓ちゃんも悪い。お酒、あんまり飲むなって言ったのに。」

「す…すいません……あの、なんでもしますからっ」


申し訳なさもあり、勢いでこんなこと言ってしまったがために、私はこの後えらい目に合う。


「…じゃあ、今日はこの後俺の行きたいところ行っていい?」

「どんとこい、です。」

「そう?ここ、出ても大丈夫?」

「あ、はい。…また一緒に行ってくれます?」

「それはもちろん。」

手を引かれてベンチからたつ。
薄暗いコーナーを抜けて、イベントコーナーで行われていたイルカショーを横目で見る。

淡水魚、深海魚のコーナーも抜けて、どんどん出口に向かっていく。

こんなに躊躇なく出口に進むなんて、よほど行きたいところなんだろうな…
そんなことを思っていた私はバカだった。


「ついた。」

「い、嫌です。」

「さっき何でもするって言った。」

「そ、それは…こういうことじゃないでしょ。」


車に乗って数十分、連れてこられた先は料理も美味しいと有名なホテル。


ちょっと待ってよ…
先輩が行きたかったところって…

心の中で深くため息をつく。


「あっちの方が良かった?」


そういって指さすのはすぐ近くにあるラブホテル。


そんな訳ないだろう…
こんなところ予想できなかったのに、一体どうすればいいんだ……

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