課長と私
三枝さんと別れて、先輩の部屋に戻る。
話を聞いてもらったおかげか、胸のつっかえがとれて少しだけスッとした感じがする。
夕方になって、夕飯の支度をし始めた。
これから少しの間一緒に暮らしていく彼のために、昨日助けてくれた彼に何かがしたくて。
彼のことを考えていると、玄関からドアのロックが外れる音がした。
席を立って玄関まで出向く。
「お帰りなさい。」
「……た…ただいま。」
「先輩?どうしました?」
「…んーん。なんでもない。」
ネクタイを緩めながら部屋の中に入っていく。
「先輩。」
「ん?」
「あの…まだちゃんと言ってないかなって、思って。」
「うん?」
「これから…少しの間お世話になります。それと、昨日は本当に…ありがとうございました。」
先輩と付き合ってからこんなことするのは初めてだ。
深々と頭を下げて、顔を上げる。
顔をあげた私の前にいる先輩は少しだけ困ったような顔をしている。
あれ…困らせちゃったかな…。
「昨日のは…恋人として、当然のことをしたまでだと思ってる。あと……ここにいるのは、少しの間じゃなくても全然いい…から。」
「お……今日はなかなかストレートな……」
いつもは言わないような真っすぐな言葉にドキドキした。
「毎日楓ちゃんが待ってるなら、俺、早く帰ってくる。」
「で、でも一応少しの間ですし…お互い仕事の都合もありますし、ね?」
「じゃあ早く家にいてもらえるようにする。」
「は…はい…。」
最後の方は圧に押されてしまった。
言葉の意味は詳しく言ってくれなかったが、うっすら笑みをこぼしているところを見ると
本当に困っているわけではなさそうだ。