課長と私

それにしても、“少しの間じゃなくてもいい”なんて。
遠まわしのプロポーズとして受け取って良いのだろうか…

早く家にいてもらえるようにするって言うのも…なんか、その…

本当、先輩は突拍子もないことを言うなぁ…


目の前で私の作った料理を黙々と食べる彼の姿をボーッと見る。
文句も言わず食べている所を見ると、味も大丈夫ということだろう。


「あの…私、休み明けから会社に行ってみます。」

「…大丈夫?」


箸を止めて、こっちを見た。


「えっと…今日、三枝さんに話を聞いてもらって…なんか、スッキリしたっていうか…何ていうか…」

「三枝さん?隣の?…楓ちゃん仲良かったっけ?」

「あー…今までは、あんまり。でも、今日仲良くなれたかも…です。」

「ふぅん…。良かったね。」


三枝さんには興味がないみたい。あまり深くは追及してこなかった。

少し安心している自分がいる。


「じゃあ、一緒に行く?会社。」

「ゴホッ…!な…んでそうなるんですか…っ」

「だって危ないでしょ。…俺も心配だし。」

「電車だし、大丈夫です。」

「頑固。」

「が、頑固じゃないです。」


ムッとした表情の私。
そんなことはお構いなしでご飯を食べ続ける先輩。


「…会社から少し離れたところにおろすから、車のって。お願い。」

「先輩…」

「……。」

「…わかりました。…お願いできますか?」


言い合いの末、私が折れた。
申し訳ない気持ちがあるけど、先輩の曇った表情が見逃せなかった。

助けてくれた恩人だし。


「当たり前でしょ。」

「ふふ…」


箸を持ち直して、食事を続けた。

ここから、私の新しい暮らしがまた始まった。








――ある日の緩奈side。


楓の様子が変だった。
まぁ、彼氏の部屋に半同棲って言ってたし、大丈夫かな…

そんなことを思っていると部長が部屋に戻ってきた。
すこし疲れている様子だ。


「あれ、須藤は?」

「楓ですか?なんか、ストーカーさんに会いに行ってくるとか言って…」

「……!」

「あ、課長?課長ー!!どうしたんだろうあんなに焦っちゃって…」


何かに気づいたように駆け出す彼の後姿を見て驚いた。
あの人のあんな表情初めて見た。

私は夕焼けの日差しがさす部屋に、終らなかった仕事をしながらポツンと一人残っていた。
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