課長と私

ここまで彼女を苦しめたアイツは一生許すことが出来ない。絶対にだ。


「…絶対にならないよ。」

「…っ」

「嫌いになんて、ならない」


彼女の上から降り、少し距離をあける。
それから彼女は静かに涙を流し続け、俺は落ち着くまで傍にいた。

涙の痕が消えないまま、いつも通りの明るい笑顔を見せようとする。
壊れてしまいそうだ。


「くそっ……」


1人寝室に戻り、壁に拳を強く当てた。
右手の痛みは感覚が無い。彼女の心の傷の方が深い。

どうしたら治る、どうしたら彼女のことを安心させることができる
どうしたら…


「先輩…入ってもいいですか?」

「ん……大丈夫だよ。」


すぐに電気をつける。


「落ち着いた…?」

「はい…」

「ねぇ楓ちゃん。」

「はい?」

「……俺、楓ちゃんの体が目当てじゃないからね。」

「え…?」


戸惑う彼女。
急にそんなことを言われたら誰だって驚く。


「だから、今後楓ちゃんのこと抱きしめられなくても…キス出来なくても良い。……近くにいられれば、それでいい。」

「……。」

「楓ちゃんの傍で支えていけるなら、それでいい。」

「先輩…。」


君が前みたいに笑える日がくるように、俺がずっと傍にいる。
もう、かなり前からそんなことは決めていたはずなのに、口に出して彼女に伝えたのは初めてだった。
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