課長と私
「私が…嫌。」
「…え?」
「先輩に触れられないのが、私が嫌…なんです。」
静かに胸に飛び込んでくる。
とっさに抱きかかえてしまった。
「か…えで…」
「先輩に触れてほしい…今すぐじゃなくても、いいから…忘れさせてくれるくらい、いっぱい……いっぱい、触れてほしいの…」
枯れるような声で、少しでも気を抜いたら聞き逃してしまいそうな声で。
すがってくる彼女に心臓が大きな音をたてた。
今、欲望のままに彼女のことを抱くのは絶対にダメだ。
頭ではそう理解しているのに、体が反応してしまう。
「…ずるいよ楓ちゃん。」
「何でですか…?」
「それは拷問です。」
キョトンとした顔の君は俺の言いたいことを理解していないだろう。
いつもの鈍感な彼女だ。
「先輩、今日…お願いがあるんですけど…良いですか?」
「お願い?」
「出来れば…私のこと、抱きしめて寝てくれませんか?」
「……大丈夫なの?」
「あの日、先輩が抱きしめて眠ってくれたじゃないですか。…すごく、安心したんです。」
確かに事件当日、彼女のことを守る様に抱きしめて眠った記憶がある。
「だから、あの時と同じようにしてほしいんですけど…ダメですか?」
「…だめじゃないよ。」
「…じゃあ、よろしくお願いします。」
「そんなことでいいなら毎日するのに…」
嬉しそうに布団の中へもぐりこむ彼女の後を追うように深い眠りに落ちて行った。