課長と私
「楓ちゃんから連絡来るの、初めてだっけ?」
「え、そうでしたっけ?なんか…手震えちゃって…」
「電話するのが?」
「その…先輩の会社、すごく人気だったから…通ったの信じられなくて。」
「…楓ちゃんなら大丈夫だよ。って受かった後に言っても、かな。」
嬉しいはずなのに、どんな表情をしたらいいのか分からない。
今まで頑張ってきたものの節目っていうものが、こういう事なのか。
「良かった。」
「…へ?」
いつも以上に晴れやかな表情の先輩が見えた。
暖かい彼の口調に、今までなんとなく萎縮していた体が徐々にほどけていく。
「待ってた。」
「え?」
「楓ちゃんがうちの会社に来るの。」
「まさか先輩…裏で何かやって」
「そんなことできる訳ないでしょ。」
「じゃあ…」
「うちの会社に来て、同じ部署で仕事が出来たらいいなって…思ってただけ。」
ほんのりと熱くなる頬が隠せない。
さっきまで不安の方が大きかった私の気持ちがみるみる内に晴れていく。
先輩の一言で、これから何をすべきかが分かった気がする。
「迷惑かけないようにします!」
「ん。……じゃあ、この後はケーキでも買って家行こうか。」
「えっ、ケーキですか!嬉しい!」
「うん。今日は帰らなくてもいい?」
意味はなんとなく分かっていたりしなかったり…
でも、今日だけは一緒にいたくて、静かに頷いた。
これが、私が先輩と同じ会社に行くまでの話。