体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
露骨に驚きを顔に出す美弥がおかしかった。

「お前、同窓会の3次会のとき、コロナ飲んでた俺にわめいてたじゃん。『そんなビール飲む男は最低だ。もう私はコロナなんて飲まない! いや、コロナと一緒にあんな奴の思い出、飲み干してトイレに流してやる!』ってさ」

「うそ……」

「うそじゃねーよ。どうせ覚えてないだろうと思って試しにコロナにしてみたけど、やっぱり覚えてなかったな

「なにも憶えてないって、前に言ったじゃない。本当に意地悪ね。三つ子の魂100までも。小学生のときとおんなじじゃない」

ふん、とスクリューキャップを取って、美弥は「乾杯」とも言わず、先にコロナビールをごくごく飲み始めた。

「いいじゃん、もうトイレに流したんだろ、そいつとの思い出は」

「流した記憶はないけど、ほぼ流れていると思う」

「ほぼってなんだよ」

「ほとんどってこと」

「言葉の意味くらいわかるよ。ほとんどってことは、大部分だけど全部は流れていないってことで、つまりまだ少し残っているわけだ」

こんな真っ青な空が広がる夏の海辺でも、彼は理屈っぽい。

「だって別れたのはついこの間だもの。でも、ほぼ流れたから……」

 随分と「ほぼ」にこだわっているのは、優の理屈通り、まだ少し啓太のことを思い出すからだ。

「じゃあここで全部流していけよ。俺が協力してやるから――」
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