体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
これまでの綾香との付き合いの中で、何かそれらしいことを言ったことがあるだろうかと、優は考えてみる。言葉には出していないと断言できた。しかし気持ちの上では“将来は綾香と”、と考えることもあったのだから、周囲の友人が結婚するたびに羨ましがっていた綾香は「自分もそろそろ」と思っていたかもしれない。

「わからない。そうしたことを口にしたことはないけど、彼女はそう思っていたかも……」
と言った直後に優は「彼女」と口にしたことに気づいてはっとし、周囲を見渡した。

美弥はいつのまにかテラスの柵にもたれて海を見ていた。お互いの電話には詮索しないことが暗黙の了解になっているので離れたのだろう。

この距離なら電話の声は聞こえなかっただろうとホッとしながら、優は美弥の後姿を眺めた。

肩より長い髪が潮風に揺れている。
ハーフパンツからのぞく足は、ふくらはぎから足首までしなやかに引き締まり、少年のように無駄のないラインだ。

「身にまとうものすべてがシンプルできれいだな」

優はスマホを耳に当てたまま見とれ、しかし父の声ですぐに現実に引き戻された。

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