体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
小さな教室だ。
百合は名前を聞けば、たいていは誰だかわかると思った。

「藤野さん」
「ふじの、さん?」

すぐに小太りのおばさんの顔が思い浮かんだ。

「もしかしてそのお友達も東京で働いている?」
「うん。綾香も――あ、友達は綾香っていうんだけど、彼女も東京で働いてる。え? まさか知り合い?」

綾香――そういえば藤野さんは娘の名前を「綾香」と言っていたっけ。
百合は藤野が、優と娘が結婚するからイベントのチケットをとってあげようかと、上から目線で言われたことを思い出し、無意識に顔をしかめた。

「直接は知り合いじゃないけど、沖田フラワースクールの息子さんとつきあっていて、もうすぐ結婚するのよって、お母さんが自慢していたわ」
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