体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
百合もその方角に目をやる。
左に続く坂道の上、夜空に桜が白く浮かびあがっていた。

「立木神社の桜だ」

それは別に有名な神社ではないけれど、百合たちが通っていた高校から駅に向かう途中にあったので、同窓生なら誰でも知っている。

「あー、高校の帰りによく寄り道したあの神社ね」

百合は制服姿の自分が境内の階段に座り込み、友人とペットボトルのジュースを飲んでいる姿が見えた。

「せっかくだから夜桜見物していこう。その後タクシーで送っていくよ」

懐かしさと桜の美しさに百合は素直に「うん」と答え、拓海と一緒に坂を上っていった。

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