囚われロマンス~ツンデレ同期は一途な愛を隠せない~
私が幽霊だとか宇宙人だとか、オカルトやホラーにジャンル分けされるものが嫌いだというのは及川も知っている。
いつそんな話になったかはよく覚えてはいないけど、多分、入社した年の夏、同期でキャンプしようだとかそんな話になった時に話題に出ていた気がする。
〝夜は怪談しようなー〟なんていう提案に思い切り反対したのが懐かしい。
確か、あの時のキャンプは結局、台風で流れてしまったけれど。
私が未だにそういう類のモノが嫌いだっていうのがおかしかったのか、及川が後ろでクックって笑う。
夕方六時を過ぎた空は、まだそこまで暗くはない。
でも、日が届かない室内は薄暗く、電気が必要な暗さだった。
そんな暗さの中でひとりで洗い物をしていてよく怖くなかったなと自分で今更思う。
怖いだとかそういう感情が気にならないほど、朝の事を考えていたのかもしれない。
「及川、仕事終わったの?」
「んー、いや、まだ少し残ってる。営業日報書かなきゃだし」
「じゃあ戻れば。っていうか、なんでわざわざ二階にきたの? 忘れ物?」
通常の業務は一階で事足りるし、預金課だって他の課だって二階に上がってくるってよほど突っ込んだ資料探しの時くらいだ。
食堂の隣が書庫だから、そこに用事でもあったのかな、と思いながらカチャカチャと洗い物をしていると「大崎のこと、なんで振らねーの」と直接すぎる問いを向けられた。