強引な彼との社内恋愛事情*2
さすがに、笑えなかった。
ザワザワと騒がしい駅の中にいるせいか、かわりに、蘇ってきたのは思い出だった。
ああ。あの夏、ここに准一と来た、と。
少しだけ、心がタイムスリップしたみたいにボーッとしてしまう。
私は確か、紺色の浴衣を着て、「千花っぽい」と言われた。
それから、いつもより色っぽいとか、そんなこと、言ってくれてた。
いつもそんなに褒めてくれる人ではなかったような気もする。
だから、気恥ずかしくて嬉しかった。
そうだっけ。どうだっけ。どういう人だっけ。
彼は、どんな格好をしていたっけ。
どんな顔で私を見ていたっけ。
「花火大会、来てたんだ?」と、先に口を開いたのは准一だった。
「あ。うん」
笑いながら、辺りをそれとなく見たけど、あの彼女の姿は見当たらない。
ひとりで来てる。
改札の奥に広重を待たせている私だってそう見えるかもしれない。
そう思うことも出来る。
だけど、そんなわけないってこと、お互いわかってる。