強引な彼との社内恋愛事情*2

さすがに、笑えなかった。


ザワザワと騒がしい駅の中にいるせいか、かわりに、蘇ってきたのは思い出だった。


ああ。あの夏、ここに准一と来た、と。


少しだけ、心がタイムスリップしたみたいにボーッとしてしまう。


私は確か、紺色の浴衣を着て、「千花っぽい」と言われた。


それから、いつもより色っぽいとか、そんなこと、言ってくれてた。


いつもそんなに褒めてくれる人ではなかったような気もする。


だから、気恥ずかしくて嬉しかった。


そうだっけ。どうだっけ。どういう人だっけ。


彼は、どんな格好をしていたっけ。


どんな顔で私を見ていたっけ。







「花火大会、来てたんだ?」と、先に口を開いたのは准一だった。


「あ。うん」


笑いながら、辺りをそれとなく見たけど、あの彼女の姿は見当たらない。


ひとりで来てる。


改札の奥に広重を待たせている私だってそう見えるかもしれない。


そう思うことも出来る。


だけど、そんなわけないってこと、お互いわかってる。
< 133 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop