強引な彼との社内恋愛事情*2
「チャージ」と、広重が呟いた。
「え?」
「できました?」
「あ。ごめん。まだ」
なにも問い詰めることなく、広重は私の手を引いた。それから、一緒に列に並ぶ。
「電車、一本見送りましょうか」と、静かに言った。
駅のホームも、混雑していた。
反対方向はガラガラなのに、私たちの帰る方は、とっても騒がしい。
「ごめんね。一本、乗り遅れちゃった」
「ううん。さっきのほうが、人すごかったから、たぶんどっちにしろ乗れなかったと思うよ」
「そっかな」
「座れたらいいですね。足、疲れない?」と、履き慣れない草履を気にしてくれた。
本当は、親指の皮が剥けそうだったけど、小さくかぶりを振った。
さっきまで、あんなに楽しそうだったのに、花火が終わったばかりの空みたいだ。
広重といるのに、なぜか寂しくなっている。
駅からは、タクシーで帰った。
「喉、渇いちゃったね」と話しながら。
さっきの元彼だよと伝えた方がいいのか迷っているうちに、タイミングを完全に失ってしまった。