強引な彼との社内恋愛事情*2

店員に文句でもつけているのかと、レジを見ると、広重が谷くんを睨んでいた。


今にも掴みかかってしまいそうな雰囲気にもとれる。


喧嘩か。と、思ったけど、怒っているのは広重ひとりで、谷くんは少し笑っているから、なんともいえない。


だけど、普段の2人は仲が良かったはずだから、ますます嘘に思えてくる。


これ以上、その場の雰囲気を悪くしてはいけない、と足は勝手に動いていた。


「どうしたの?」


「いえ、なんでもないです」と、広重が言えば、谷くんもあわせるみたいに、「はい。なんでもないです」と言った。


そんなわけない、と思ったけれど。2人とも大人だし、なんでもない、と本人たちが言えるのなら、なんでもないのだろう。


「店の中なんだから、騒がないようにね」とだけ、釘をさす感じで言った。


タクシーを待っている間、水谷さんが、私によく話しかけてきた。


それにつられたかのように、無言だった2人もぽつぽつと会話をしだしたから、ようやく悪い空気が少しだけ払拭された気がする。


そこで、広重と3人で別れて帰ったから、明日にはなにもなかった顔で会えればいいのだけど。
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