強引な彼との社内恋愛事情*2
指先に、秋の音
トイレで手を洗っていると、水谷さんが入ってきた。
「お疲れ」と、鏡越しで言う。
さっきから、ぼんやりと私を見ている。
「お疲れ様です」
「どうしたの?」
「いえ。手、綺麗だなと思って」
「手?」
「ああ。ごめんなさい。なんでもないです」
と、言ったのに、急に意を決したみたいに表情を引き締めた。
「ていうのが、嘘で、お願いがあるんですけど」
「お願い?」
「あの……モデルになってくれませんか?」
「モデル?」
聞くところによれば、ネイル検定が今週末に行われるらしい。
それには、ハンドモデルが同行しないといけないみたいで。
総務の金子さんに頼んでいたものの、爪が折れて、ハンドモデルを降りなければいけなくなったそうだ。
だから、代わりの人を探していて、と笑いながらも、ひどく困っているように見えた。