強引な彼との社内恋愛事情*2

そう言ったら、「バカ。こんな面白い話、他人に言うわけねーだろうが」と、真顔で言った。


それから「餞別」と、言うと、おもむろにポケットを探り出す。


取り出したのは、タバコのソフトケースだった。


「田原さん、タバコやめたんじゃないですか?」


「今日から、やめるよ」


「何日、持ちますかね」


「お前らが別れたら吸うことにするよ」


「変なプレッシャーかけないでくださいよ。そんなことより、奥さんと子供の健康考えて下さいね。ご自分もですけど」


もう、本当いっつもくだらないことしか言わないんですねと、心で笑いながら、少し切なくなった。


きっかりと、過去の私に線を引くことができた気がした。


過去の私にさよならと言えた気がした。


好きだった人、とか。嫌いだった人、とか。


思いだしたくないこと、とか。忘れたくないこと、とか。


それは全て過去であり、やっぱり今の私には関係のないことなんだ。


そしたら、今って、こんなに眩しいんだと、はっきりわかる。


駅前から、広重が待つ場所に向かってる、今でも。


例えば広重が、今、隣にいてほしいと思う瞬間にいなくても。
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