強引な彼との社内恋愛事情*2
あれから大きな事件もなにもなくて、なんでもない平凡な日常を広重と過ごしている気がする。
だけど、なんだか、とても愛おしい。
ティッシュとって、とか言われたり。たまに耳かきをしてあげたり。呪文のような寝言を言われたり。
そんなことが、愛おしい。ひとつもかけて欲しくない。
「千花さん」と、広重が私を呼ぶ。
「なに?」
「あのさ」
「うん」
「覚えてる?」
「うん?」
急に私の左手を取った。それから広重の唇が触れたのは、私の薬指だった。
「ここ、予約したこと」
「……覚えてるけど」
「目、つむって」
「目?」と、言われるまま、瞳を閉じた。
それから、薬指がヒンヤリした。根元に辿り着いて止まる。
「え……」
「目、開けてください」
「えっと」と、今すぐに冷たさを感じた指を見たいのに、広重が見つめてるから、彼の顔を黙って見てしまう。