強引な彼との社内恋愛事情*2

あれから大きな事件もなにもなくて、なんでもない平凡な日常を広重と過ごしている気がする。


だけど、なんだか、とても愛おしい。


ティッシュとって、とか言われたり。たまに耳かきをしてあげたり。呪文のような寝言を言われたり。


そんなことが、愛おしい。ひとつもかけて欲しくない。


「千花さん」と、広重が私を呼ぶ。


「なに?」


「あのさ」


「うん」


「覚えてる?」


「うん?」


急に私の左手を取った。それから広重の唇が触れたのは、私の薬指だった。


「ここ、予約したこと」


「……覚えてるけど」


「目、つむって」


「目?」と、言われるまま、瞳を閉じた。


それから、薬指がヒンヤリした。根元に辿り着いて止まる。


「え……」


「目、開けてください」


「えっと」と、今すぐに冷たさを感じた指を見たいのに、広重が見つめてるから、彼の顔を黙って見てしまう。
< 289 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop