死にたがりの私と 生きたがりの君
それから暫く経った日、
いつものように病室を訪れると
楓はなんだかご機嫌で、
歌を口ずさんでいた。
「なんだっけ、それ
スピッツの"空も飛べるはず"?」
「正解!正に俺今、
空も飛べそうなんだ!的な」
「なになに?何かいーことあった?」
そう尋ねると、楓は
来週一週間だけ
退院できるんだと教えてくれた。
「通院の透析に慣れるための
テストの一週間なんだ。
つまり、俺がこの一週間を乗り切れば
本当に退院できるんだ!」
「すごいじゃんっ!!」
「透析で20年生きた人だって居るんだ!
よし、俺が最長記録だすぞ~!」
いやいや、
そんなギネスみたいな言い方…………。
でもまぁ、前向きなのはいいことだ。
「学校にも行けるの?」
「うん!」
本当に嬉しそうに笑う楓に、
私は思わずつられて笑みが零れた。
楓がこの退院を乗り切れば
透析で長く生きれば生きるほど
その間にドナーが見つかる
可能性があがるし、
腎臓移植に成功すれば
楓は健康体に戻れる。
楓と私なら、
何でも上手くいくと信じていた。
この時は、信じていた。