死にたがりの私と 生きたがりの君
それから、パパとママが
駆け付けてきて
ユキと翔琉くんは気を遣って
病室を後にした。
パパも、ママも
くしゃくしゃに泣いてしまっていた。
多分、私と楓も。
「………………ごめんなさい…………
ごめんなさい二人とも…………!!」
ママは、気が強くて
決して自分を曲げない。
パパは、どんな時でも
落ち着いていた。
そんな二人から、
こんな言葉が聴けるなんて
思いもしなかった。
あの頃より少し大人になった私は
言える。
私たち家族に足りなかったのは
ずっと言葉だったと思う。
どんなに些細でもいい。
暖かい言葉を、
本当は欲しがっていた。
ママも、パパも、私も、本当は。
もう、遅くなってしまったけれど
言わせてほしいんだ。
今度は、捨てて逃げたりしない。
「パパとママの子でよかった」
驚いた表情のパパとママに、
私は教えてあげるんだ。
今の私の、生きる理由。
それは、大切な人と
その"生きる理由"を探して生きること。
だから私は生きていたいし、
楓にも生きていてほしい。
ショックだったけど、
私たちはママから生まれたから。
神様なんかじゃない。
ママが、巡り会わせてくれたんだよ。
「だから、ありがと」
ひまわり院で、
ずっとママを待っていた。
すごく時間をかけたけど、
ママは迎えに来てくれたんだから
もう、何も要らない。
大粒の涙を流すパパに、
楓は酸素マスクを外してほしいと
小さく合図する。
パパはゆっくりとマスクを
外すと、楓の髪をそっと撫でた。
「美桜や僕達に、
言いたいことがあるのかい?」
その優しい声に、楓は頷く。
「……………皆……助けてくれて……ありがと」
それは
絞り出すように弱い声だけれど、
とても暖かい。
すっかり細くなった指先で、
私に傍に来るように促す。
「美桜は……大好きな姉さんだ。
でも俺…姉さんじゃなくたって
美桜が好きだ………」
屈託のないその優しい笑顔で、
私の頬を撫でる。
なんだかまた、涙が流れちゃうよ。
「美桜は、どうしたい?」
──────ばか。
きまってんじゃんそんなの。
「………変わらないよ。今までと何も。
私、楓を愛していたいんだもん」
13年間、待っていたママとパパだけど。
楓には変えられない。
だって、私は楓のお陰で生きてる。
「ママが私に命をくれて、
楓がその命を救って………
今度は私が楓の命を大切にしたい。
それでまた新しい命を私と紡ごうよ」
大きく、澄んだ瞳が見開いて、
瞬きも忘れて
私を見つめている。
その瞳から涙が流れたのを、
私は見たんだ。
そして、包み込むように抱き寄せた。
『 俺、大人になったら
美桜みたいな女の子が欲しい』
君がそう言った、あの日のこと
忘れていないよ。
「美桜なにそれ?プロポーズ?」
「そうよ。だって楓も
してくれたじゃない」
大好きだよ、楓。
こんなにも在り来たりで、
簡単な言葉だけれど。
楓にしか言えないの。