その唇に魔法をかけて、
「正義の味方……か」
 ぼそりと呟くと、花城の頭に藤堂のことが思い浮かんだ。

 藤堂とは、小学生の頃から家族ぐるみの付き合いをしてきた。そして今では言葉を交わさなくとも何を思い、考えているか手に取るようにわかる。

 しかし、藤堂は事故で両親を失ってからというもの、心の中が読み取りづらくなってしまった。大人になるにつれてどんどん離れていってしまうことは仕方のないことだと思いつつも、藤堂が美貴に対して特別な思いを密かに抱き始めていることは、わかりにくい表情からでもすぐにわかった。

 藤堂はつらいことを経験し過ぎた。だから、彼には幸せになる権利がある。頭の中ではわかっているが自分自身、胸の奥底で疼き始めている美貴に対する感情を、果たしてどこまで見てみぬふりができるか定かではなくなっていた。

「お前にとってのヒーローは……どっちなんだろうな」

 誰の耳に届くことのない独り言を呟いて、美貴の寝顔をちらりと見ると、花城は一気にアクセルを踏み込んだ。
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