その唇に魔法をかけて、
※ ※ ※

 翌日。

 短いようで長かった週末が終わった。

「みんな心配していた」と花城から聞かされて、とにかく迷惑をかけてしまったことは謝らなければならない。美貴はあれこれ考えながらいつも通りに出勤した。

 若干の疲れは残っていたものの、昨夜、花城から車で寮まで送ってもらい、その後の記憶が曖昧だった。

(あれから多分すぐ寝ちゃったんだろうな……)

 朝の日課である玄関前の掃除を終わらせて、館内に戻ろうとしたその時だった。

「……彩乃ちゃん」

 箒を持った彩乃が建物の影から現れて、そしてふたりの視線がぶつかった。

「おはよう、彩乃ちゃん」

「お、はよう……」

 変に意識すればするほどぎこちなくなってしまいそうで、何事もなかったかのように声をかけた。しかし、彩乃はどことなく気まずそうに目線をそらし、そそくさとその場を離れようとくるりと背を向けた。

「待って彩乃ちゃん!」

その呼びかけに彩乃が戸惑いながらも振り返らずに足を止めた。
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