その唇に魔法をかけて、
第五章 記憶の欠片
季節は晩春から初夏へと移り変わり、黎明館の周りに連なる山々は新緑の色を増していった。そして青々とした若葉は、雲ひとつない青空にキラキラとよく映えていた。
「えーっと、これが“お気をつけて”でこれが“いってらっしゃい”の形か……」
午前中の仕事を終え、美貴は中休みに誰もいない休憩室でひとり、手話講座のテキストを広げて今日も練習に励んでいた。
花城の影響で本格的に始めた手話だったが独学では難しく、時々花城に教わることもあった。その度に手話の奥深さを知り早く上達したい、と焦りのようなものを感じた。
(あぁ~やっぱり難しい!)
一通りの挨拶くらいはマスターできたものの、会話となるとどうしても戸惑ってしまう。元々勉強が嫌いだった美貴は、うまくいかない歯がゆさに突っ伏した。
「あぁ、深川さん」
その時、休憩室にコーヒーを片手に藤堂が入ってきた。咄嗟に顔をあげて、だらしない姿を見られてしまったかも、と慌てて姿勢を正す。
「えーっと、これが“お気をつけて”でこれが“いってらっしゃい”の形か……」
午前中の仕事を終え、美貴は中休みに誰もいない休憩室でひとり、手話講座のテキストを広げて今日も練習に励んでいた。
花城の影響で本格的に始めた手話だったが独学では難しく、時々花城に教わることもあった。その度に手話の奥深さを知り早く上達したい、と焦りのようなものを感じた。
(あぁ~やっぱり難しい!)
一通りの挨拶くらいはマスターできたものの、会話となるとどうしても戸惑ってしまう。元々勉強が嫌いだった美貴は、うまくいかない歯がゆさに突っ伏した。
「あぁ、深川さん」
その時、休憩室にコーヒーを片手に藤堂が入ってきた。咄嗟に顔をあげて、だらしない姿を見られてしまったかも、と慌てて姿勢を正す。