その唇に魔法をかけて、
　今日は良く晴れてわずかに湾曲した水平線がくっきりとよく見えた。海面はガラスの粉を撒き散らしたように煌めき、その眩しさに思わず目を細めた。

「いい天気ですね。海も穏やかだし綺麗」

　潮の香りを胸いっぱいに吸い込んで両手を広げて深呼吸すると、すべてがリセットされる。

「私もよくこの浜辺には来るんですよ。考え事をしたい時とかにね」

　遠くの水平線を見つめる藤堂の眼差しはどことなく物憂げで、思いつめているようにも見えた。藤堂の横顔を見ていると、その視線に気付いたのか目を合わせてくる。

「私は改めて深川さんに謝らなければならない」

　神妙な面持ちで藤堂が声音を低くする。何のことかと思っていると。

「彩乃から全部聞きました。チーフマネージャーとして、仲居同士のコミュニケーションも把握するのは当然のことだと思っていましたが……今回ばかりは気づけず申し訳ありませんでした」

「え!?　ち、ちょ……藤堂さん？　やめてください」

　すると、常に黎明館では毅然と振舞っている藤堂が目の前で頭を下げた。その突然の行動にどうしていいかわからず困惑する。
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