その唇に魔法をかけて、
「楽しそうですね」

 その様子を見た藤堂がぽつりと言った。

(あれ? この感じどこかで……)

 記憶の欠片がくっつきそうでくっつかない。そのもどかしさに声を発することもできないでいると、藤堂が不思議そうな顔で覗き込んできた。

「深川さん? そんな難しそうな顔してどうしたんですか?」

「え? あ、なんでもないんです。ただ、あの砂山を作っている光景を見てなんだか懐かしい気持ちになってしまったというか……自分もどこかで……。でも、すぐに思い出せないってことは、きっと気のせいですよね」

 そう言って笑うと、藤堂はもう一度子ども達に視線を向けた。その楽しそうな光景に藤堂は微笑みではなく、なぜか切なげな表情を浮かべていた。

「思い出せない思い出は、自分にとって結局不必要な思い出だったりしますから……無理に思い出そうとしなくてもいいと思いますよ」

「そう、ですよね」
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