その唇に魔法をかけて、
 翌日の中休み――。

 美貴は今日も休み時間を使い、ひとり休憩室で手話の勉強に励んでいた。しかし、昨日の残業の疲れが身体に残っているためかなかなか集中できず、テキストを閉じるとあくびをかみ殺した。

(はぁ……昨日もこんな調子だった気がする。集中力ないな)

 藤堂に連れて行ってもらった浜辺に今度はひとりで出かけてみようかと思っていたその時だった。

「あら、美貴ちゃんひとり?」

「かえでさん、お疲れ様です」

 これから中休みに入ろうとしているかえでが私服に着替えて休憩室に入ってきた。

 いつもは結いあげている長い髪の毛をおろし、モデルのようなスラっとした細身のジーンズにラフなシャツを羽織っている。奥ゆかしい和服姿とはまた違い、大人の色気にどきりとしてしまう。
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