その唇に魔法をかけて、
「日本酒はいける口か?」

「い、いえ。日本酒は……まったく味もわかりません」

 飲みに行っていつも飲むのは甘いカクテルばかりだ。日本酒やビールはどちらかというと苦手だった。

「あはは、正直でよろしい。でも、乾杯くらいは付き合えよ?」

 否応なしにお猪口を持たされると、トクトクと冷酒を注がれた。清涼感のあるガラス製のお猪口の中で濁りのない酒が揺れている。

「これ、琉球ガラスですか? 綺麗」

「あぁ。この時期にぴったりだろ」

 琉球ガラスは気泡や色のグラデーションが美しい。今手にしているお猪口も、淡いブルーにいくつもの気泡が混じっていて、まるで海中を思わせる。

「そういえば私、売店でさっきおつまみ買ってきました」

「気が利くな。酒のことばっかり考えててすっかりつまみを忘れてた。まぁ、とにかく乾杯だ」

小さなお猪口は乾杯の際にカチンと合わせると、溢れたり高価な物でもあったりするため、片手を添えた両手で目線より少し上にして乾杯する。そっとひとくち口をつけると、ぴりっとした刺激が舌に走った。

(うぅ、なんか辛い……!)

 せっかくの酒だったが、反射でつい思わず顔をしかめてしまった。それを見た花城がくすりと笑う。

「辛かったか? あぁ、悪い、これ辛口だったみたいだな」

 顎に親指と人射し指をあてがって、花城がラベルを確認する。

「すみません……ちょっと全部は飲みきれないです」

せっかく試飲に誘ってもらったというのに酒が飲めないなんて話にならない。もう少し大人だったら……と、そんなことを思ってしまう。

「じゃあ、これはどうだ? 甘口だから平気だと思うけど……悪いな、お前が飲める酒がなくて」

「いいんです。それいただきます」

 再び花城に酒を注がれてお猪口を受け取る。するとフルーティな香りがふわっと鼻腔を掠め、その香りに誘われるように口に含んだ。
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