その唇に魔法をかけて、
「まぁ、それをきっかけに更生したんだけどな……取り返しのつかないことはどんなに頑張ってももう元には戻らないって後悔した。気づいた時には黎明館の従業員も離れていって、俺は……結局、疫病神みたいなもんだったんだよ」

「疫病神って? どういうことですか?」

 らしくもなく花城が暗い表情をしている。彼を見ていると、誰も知らないような闇が見え隠れしているように思えた。「そんな顔しないで欲しい」そう心の中で、美貴は何度も声にならない言葉を繰り返した。すると。

「俺に関わった連中はみんな不幸になるだけだ」

 吐き捨てるように言って、自虐的に笑った花城の表情が胸にちくりと刺さる。なぜ関わったら不幸になるのか、関わった人とは誰なのか、尋ねたいことが頭の中でぐるぐると渦巻いているが言葉にするにはおぼつかない。

「花城さん、前に私が東京に帰った時、総支配人として……って私に謝ったの覚えてますか?」

「え? あぁ」

 ずっと黙っていた美貴が口を開くと、花城がちらりと視線を向ける。

「あの後、藤堂さんにも同じように頭を下げられたんです。その時に、藤堂さんが、なんでもかんでも自分のせいだと思い込むのは花城さんの悪い癖だって言ってたんです。その……藤堂さんのご両親が亡くなったのも」

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